石角完爾著:ユダヤ人の成功哲学「タルムード」金言集より
  ナポレオンとニシンの話
     ナポレオンがヨーロッパを征服したしたときに、それぞれ征服した国の協力者に「お前たちに
    褒美を取らせるから、何が欲しいか言ってみろ」と言った。フランス人は「ワイン畑とワイン工場
    が欲しい」、ドイツ人は「麦畑とビール工場が欲しい」、イタリア人は「小麦畑とおいしいパスタ工
    場が欲しい」と申し出た。 ところがユダヤ人は「ニシンを二匹だけ欲しい」と言った。その願いは
    すぐに叶えられ、ユダヤ人はニシンをもらって帰った。 他国の人々からは「ナポレオン様がせっ
    かくご褒美をくれると言っているのに、そんなちっぽけなものをもらって、ユダヤ人はバカだな」
    と言われた。 しかし、ナポレオンはすぐに没落して、願いが叶ったのはユダヤ人だけだった。
    ユダヤ人を嘲笑した他の国の協力者は何一つもらえなかった。
    小さな儲けにとどめよ —それを繰り返せ
    権力は移り行くもの
     ナポレオンがヨーロッパを征服したのは今から約200年前の19世紀初頭だが、ユダヤの
    説話には時代の覇者の名前もたびたび登場する、ナポレオンの名前を小話に登場させる
    のは、「権力は移り行くもの」というユダヤ人への説諭もあるのだろう。 ナポレオンの天下
    がずっと続くと思い、大きな褒美を要求した他の国の協力者は何も得られず、ユダヤ人の
    小さな望みだけがすぐ叶えられた。この小話は、欲張らずに、すぐ叶えられる小さなことか
    ら着実に実践していこうという教訓だ。それを何十年も繰り返せばいつの間にか大きな富
    が貯まっていくはずだという。 お金儲け自体は、ユダヤ教は否定していない。実際、受難
    の歴史の中で、民族が生き残るためには日々の糧を得るお金が必要だった。お金儲けは
    そうした小さい利益の積み重ねであり、一攫千金を目論んでも結局何も手に入らない。
    説話に値段の安い魚のニシンを引き合いに出したのも、他人にバカにされても着実に手に
    入る日々の糧が一番大切なのだというユダヤ人への諭しなのである。そこには人が嫌が
    る仕事を率先して引き受ければ着実な儲けにつながるという考え方も同時にある。ユダヤ
    人に中世ヨーロッパのキリスト教徒の人々が嫌う職業の「金貸し業」が多かったのも、そう
    した理由だ。 ユダヤ人の行う金融業は、同胞から金利を取ってはならないという決まりが
    ある。また、借り手の生活権は侵害してはならず、担保も取らない。当然、貸し渋りや貸し
    はがしもしてはいけないということになる。つまり、ユダヤ人の中で、お金儲けのために金
    融業を始める人はいない。しかし、こうした厳しい規制があるからこそ、そして、小さな利益
    を何十年も何百年も繰り返し手にすることで、金融業で成功したユダヤ人が多い。 むしろ
    成約があることによって、健全に、そして着実に事業を継続することができたのである。ユ
     ダヤ教で戒律、成約を重視するのは「継続なければ成功なし」を知っているからだ。
Continuing is the father of success.